「居住用賃貸物件」と「事業用賃貸物件」の原状回復はかなり違います。特に神戸では最近は少なくなりましたが、「敷引」等の風習から、事業用賃貸物件の原状回復に関してかなり条件が悪いと感じる方も多いようです。
ではどの様に違うのでしょうか?
原状回復をめぐる過去の敷金返金訴訟の傾向をまとめてみると、事業用賃貸(オフィス・店舗)と住宅用賃貸では原状回復義務に大きな違いがあることが分かります。
これは、主に個人契約を行う住宅用賃貸では消費者保護の観点から”消費者契約法”が適用されることが要因です。また、営利目的での利用が主となる事業用賃貸では、多数の人員の出入りをはじめ、通常使用を超える損耗が想定されることから、経年劣化による自然損耗とは認められず、原状回復特約が広く認められていると言っても過言ではありません。
消費者契約法とは?
消費者契約法(しょうひしゃけいやくほう、平成12年5月12日法律第61号)とは、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。 」法律である(第1条)。平成12年5月12日公布、平成13年4月1日施行。
消費者団体訴訟制度を盛り込んだ改正法(消費者契約法の一部を改正する法律、平成18年6月7日法律第56号)が平成19年(2007年)6月から施行されている。
住宅用賃貸では前記したとおり”消費者契約法”により賃借人の経年劣化等による通常損耗は原状回復義務にあたらないとされていますが、事業用賃貸の場合、消費者契約法が適用されず、原状回復義務の範囲が全く異なってきます。
その判決理由は以下の通りです。
一般に、オフィスビルの賃貸借においては、次の賃借人に賃貸する必要から、契約終了に際し、賃借人に賃貸物件のクロスや床板、照明器員などを取り替え、場合によっては天井を塗り替えることまでの原状回復義務を課する旨の特約が付される場合
オフィスビルの原状回復費用の額は、賃借人の建物の使用方法によっても異なり、損耗の状況によっては相当高額になることがあるが、使用方法によって異なる原状回復費用は賃借人の負担とするのが相当である
原状回復費用を賃料の額に反映させるのは、賃料額の高騰につながるだけでなく、賃借人が居している期間は専ら賃借人側の事情によって左右され、賃貸人においてこれを予測することは困難であるため、適正な原状回復費用をあらかじめ賃料に含めて徴収することは現実的には不可能
一般的に事業所用賃貸では、スケルトン状態で賃貸した後、利用者の使い勝手に合せ間仕切りや電気配線工事が行われ、中には躯体部分に関わる設備工事も多数発生します。
また、事業者である賃貸人に対し、賃借人も事業者であることから、力関係に大きな差はないと考えられるため、契約内容に基づき原状回復の義務を負うのが妥当であると考えられています。
これにより事業用賃貸では、原状回復に関する特約が大きな意味を持つこととなり、特約に明記することにより、経年劣化とされる部分にまで原状回復義務を負わせることができるとされています。
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