市営住宅の賃貸で、「入居者が暴力団員と判明したとき、明け渡しを請求できる」との規定は憲法14条1項等に違反しない

Q,ご相談  「公営住宅で貸主が暴力団員を排除する事例があります。差別や人権という面で憲法上問題はありませんか?」

合理的理由のない差別ということにはならない

確かに排除例は増えています。最近関西の某市営住宅で暴力団排除を定めた条例と憲法14条1項(法の下の平等)等の関係を論じた最高裁判判決があったので説明しましょう。
N市は平成17年8月、市営住宅条例に基づき市営住宅の入居者をY1と決定。同条例46条1項柱書には「市長は入居者が次の各号のいずれかに該当する場合において当該入居者に対し当該市営住宅の明渡しを請求することができる」とあり、その後平成19年12月の条例改正で「暴力団であることが判明したとき(同居者が該当する場合を含む)」が追加されました(同項6号)
平成22年8月、N市はY1が父Y2と母Y3を本件住宅に同居させることを承認し、その際Y1とY2はN市に前項6号の誓約書を提出。同年9月、N市はY2に本件住宅の同居者として本件駐車場の使用を許可しました。
同年10月、N市はH警察からの連絡ででY1が暴力団員である事実を知り、Y1に対し前記条例の規定に基づき同年11月30日までに本件住宅の明渡しうを、Y2に対し本件駐車場の明渡しを請求しましたが、同人が期限を徒過したのでN市が提訴。
Y1らは「本件規定は合理的理由がないまま暴力団員を不利に扱うもので憲法14条1項に違反する」「必要な限度を超えて居住の自由を制限するものであり憲法22条1項に違反する」等と争いましたが、1・2審はN市の請求を認容しました。Y1らは本件規定を憲法違反だとして上告。最高裁2小は、

イ、地方公共団体は低額所得者、被災者その他住宅の確保が図られるよう施策を策定し実施する(住生活基本法1,6,7,14条)もので、入居につき一定の裁量権がある。

ロ、暴力団員は集団的又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体の構成員(暴対法2条2号同6号)であり、同人が入居し続ける場合は他の入居者の生活の平穏が害されるおそれを否定できない。

ハ、団員は暴力団を脱退し団員でなくなることが可能であり、又当該市営住宅以外における住居の制限を受ける居住の制限を受けるわけではない。「本件規定は合理的理由のない差別ということはできないから憲法14条1項に違反しない」「本件規定による居住の制限は公共の福祉による必要かつ合理的なものであるから憲法22条1項に違反しない」と上告を棄却し、これは「昭和39年5月27日及び平成4年7月1日各大法廷判決の趣旨(利益較量論ー合理的理由なく差別することを禁止)に徹して明らかである」と付言しました。(平成27年3月27日 最高裁2小判決 最高裁ホームページより)。